研究助成の採択

大学院生の西村誠さんと齋藤岳人さんが公益財団法人吉田秀雄記念事業財団の研究助成に採択されました。
https://www.yhmf.jp/news/2022/0421_2022-2.html

基礎心理学研究の論文が公開されました

基礎心理学研究の特集号「オンライン基礎心理学研究の挑戦」に採択された2本の論文がJ-STAGEで早期公開されました。

齋藤岳人・井上和哉・樋口大樹・小林哲生 (2022). 仮名文字に対する単純接触効果: 実験室外の接触頻度と文化間比較に基づく検討 基礎心理学研究, 40(2), xxx-xxx. [Link to J-STAGE]

Park, K., Li, Y., & Inoue, K. (2022). Seriously participated? Including catch trials does not in itself improve the assessment of explicit sense of agency in online experiments. The Japanese Journal of Psychonomic Science40(2), xxx-yyy. [Link to J-STAGE]

オンラインの反応時間実験は信頼できるのか

 Online Psychological Experiment Advent Calendar 2020の19日目の記事です。もう少し新しい情報を含めて書きたかったのですが,井上 (2019)や井上 (2020)の焼き直しみたいな感じになってしまいました。。

 私の専門は認知心理学です。認知心理学の研究者の多くは従属変数として反応時間を使用した経験があるのではと思います。経験がある人には分かると思いますが,かなり容易に反応時間の値は変化します。例えば,周囲がうるさくて集中しにくいと反応時間は長くなります。また,実験中にスマホがなったりすると,スマホを早く確認したくなり,反応時間は短くなるかもしれません。キーボードのキーが固くて押しにくいと反応時間が長くなる可能性もあります。

 実験室実験ですと,上記のような問題にはある程度対処できます。しかし,実験場所や実験装置の選択が参加者に任されているオンライン実験ですとそうもいきません。このため,従来の実験室実験で報告されていた効果が本当に再現されるのか,実験室実験とオンライン実験で得られる効果の大きさに差がないのかといったことを心配する人がいるかもしれません。

 結論を先に言ってしまえば,反応時間を指標とした現象の再現性に関してはそれほど心配する必要はありません。下の表は,反応時間に関係する現象をオンライン実験で検討した結果をまとめたものです(◯は再現)。多くの現象が再現されていることが分かると思います。

 マスク下プライミング(masked priming)だけがやや再現性に欠ける結果となっています。マスク下プライミングの実験では,マスク刺激を短時間提示する必要があります。このような閾下提示の実験はオンライン実験に向かないのかもしれません。ただ,そもそも実験室実験でPsychToolboxを使用した場合にも再現されていませんので(Semmelmann & Weigelt, 2017),マスク下プライミングは安定した現象ではないという可能性もあります。

※反応時間と関係が薄いものは表にはまとめていません。

  Crump et al. (2013) Barnhoorn et al. (2014) Majima (2017) Semmelmann & Weigelt (2017) Hilbig (2016) 中村・ 眞嶋 (2019)
ストループ効果    
タスク切り替え      
サイモン効果        
復帰抑制        
注意の瞬き      
フランカー効果      
視覚探索          

マスク下プライミング

×   ×    

語彙判断

         

心的回転

         

 

           

 効果の大きさに関しても,オンライン実験は実験室実験と遜色ないレベルで得られることが報告されています。例えば,Semmelmann & Weigelt (2017)は表に記載された現象を実験室実験とオンライン実験で比較していますが,ほとんどの現象で差が見られませんでした。また,差があったとしても,結果の解釈に違いが出るような本質的なものではありませんでした。同様の結果はHilbig (2016)やde Leeuw  & Motz (2016)などでも報告されています。

 以上のように,反応時間課題(特に効果量が大きなもの)に関しては,オンライン実験の使用は問題ないことが示されています。ただ,反応時間のベースラインの違いに関しては注意が必要かもしれません。上で紹介している多くの研究で示されていることですが,一般的にオンライン実験では実験室実験よりも反応時間が数十ミリ秒程度長くなる傾向があります。これは,ソフトウェア(ブラウザやOS),デバイス,実験環境などの複合的な要因によって生じるものだと思われます。こうした要因は実験参加者の要因と交絡する可能性があるため(例えば,高齢者は若齢者よりも古いパソコンを使用しているなど),異なる実験参加者集団間で反応時間の全体的なレベルを比較したりすることには気をつける必要があるのではと思います。

 もし反応時間についてもっとお知りになりたい方がいらっしゃいましたら,是非「心理学,認知・行動科学のための反応時間ハンドブック」をお買い求めください。

引用文献

  1. Barnhoorn, J. S., Haasnoot, E., Bocanegra, B. R., & van Steenbergen, H. (2015). QRTEngine: An easy solution for running online reaction time experiments using Qualtrics. Behavior Research Methods, 47, 918–929.
  2. Crump, M. J. C., McDonnell, J. V., & Gureckis, T. M. (2013).
    Evaluating Amazon’s Mechanical Turk as a tool for experimental behavioral research. PLoS ONE, 8, e57410
  3. de Leeuw, J. R., & Motz, B. A. (2016). Psychophysics in a Web browser? Comparing response times collected with JavaScript and Psychophysics Toolbox in a visual search task. Behavior Research Methods, 48, 1–12
  4. Hilbig, B. E. (2016). Reaction time effects in lab-versus Web-based research: Experimental evidence. Behavior research methods, 48, 1718-1724.
  5. 井上和哉 (2019). ウェブによる反応時間実験  綾部早穂・井関龍太・熊田孝恒 (編) 心理学、認知・行動科学のための反応時間ハンドブック (pp.??-??,) 勁草書房
  6. 井上和哉 (2020). 反応時間の個人差とオンライン実験. 基礎心理学研究, 38, 237-242.
  7. 中村紘子・眞嶋良全(2019). 日本人クラウドワーカーによるオンライン実験と大学生による実験室実験における認知課題成績の比較 基礎心理学研究,38, 33–47.
  8. Majima, Y. (2017). The feasibility of a Japanese crowdsourcing service for experimental research in psychology. SAGE Open, 7, 1–12.
  9. Semmelmann, K., & Weigelt, S. (2017). Online psychophysics: Reaction time effects in cognitive experiments. Behavior Research Methods, 49, 1241–1260.

 

研究補助員の募集(随時)

東京都立大学認知・感情科学研究室では,科研・民間助成・企業との共同研究等をお手伝いいただける方を大募集しております。

仕事内容
・実験参加者への連絡,実験参加者への課題の説明(対面実験を実施する場合)
・研究の実施に伴う事務手続き
・文献検索
・刺激・資料・実験プログラム作成
・簡単なデータ分析
 
必須条件
・心理学もしくはその周辺分野を専門とする大学院生(修士)と同等もしくはそれ以上の経歴を有するもの
 
歓迎条件
・人を対象とした研究経験
・データ解析の経験や実験プログラムの作成経験
・辞書ありで英語論文を読める程度の英語力
 
待遇
時給:1100円〜1400円程度(経験や能力によって異なります)
勤務日数:週1日〜週3日程度
勤務時間:1日にあたり3〜7.75時間程度
勤務場所:東京都立大学南大沢キャンパス
※勤務日数,時間等は応相談
 
ご興味やご質問がある方は
までご連絡ください。
 
どうぞよろしくお願いいたします。

大学院説明会のご案内

 東京都立大学大学院人文科学研究科心理学・臨床心理学分野では,7月12日(日) 16時からzoomによる大学院説明会を行います。参加を希望される方はリンク先のpdfをご確認の上,7月5日(日)までにお申し込みください。
http://www.jinsha.tmu.ac.jp/source/kobetsusoudanR0611.pdf 

 また,本研究室では研究室訪問やzoomによる面談等を随時行っていますので,大学院への進学をお考えの方は電子メールでご遠慮無くお問い合わせください。
E-mail: kazuyainoue[-at-]k-inoue.info
[-at-]を@に置き換えて下さい。

第1回心理学を学んだ人のキャリアパス講演会を開催しました(12/3)

2019年12月3日(火)に,NTTサービスエボリューション研究所の石川ちなつさんをお招きして,第1回心理学を学んだ人のキャリアパス講演会を開催しました。
講演会では,NTTという企業の特徴やNTTでの働き方,心理学者として企業で働くことの大変さなどをご紹介いただきました。また,石川さんが行っている研究もご紹介いただき,とても興味深く聞かせていただき,学生のみならず,教員にとっても非常に有意義な機会となりました。
ありがとうございました。

本研究室では,今後も民間企業の方をお招きして,企業と大学との接点を増やしていきたいと考えています。ご協力いただける方がいらっしゃいましたら,ご連絡をいただければ幸いです。

反応時間ハンドブックの出版

勁草書房から「心理学,認知・行動科学のための反応時間ハンドブック」が出版されます。現代の心理学や関連の学問で多用される反応時間の基礎知識、計測方法、分析方法、実用例などを解説した本です。

本書は、筑波大学名誉教授の故菊地正先生が残された原稿を、菊地先生の弟子たちが加筆し、出版したものです。私はウェブによる反応時間実験・リーチング・感覚モダリティ・反応モダリティ・アクションビデオゲームプレイヤー・アスリート・加齢・心的不応期パラダイムを担当させていただきました。

上記のような事情で出版された本ですので、必ずしも各テーマの専門家が担当したわけではないのですが、みな菊地先生への御恩に報いるべくベストを尽くし、良書に仕上がったのではないかと考えています。ぜひご購入いただければ幸いです。

心理学,認知・行動科学のための反応時間ハンドブック

大学院修士・博士課程学生の募集!

首都大学東京認知心理学研究室では、大学院修士・博士課程の学生を募集しております(募集要項等はこちら

本研究室では、主に行動指標を中心とした認知心理学研究や感情心理学研究を行っておりますが、教員の共同研究者と連携することにより、生理指標や神経科学的手法を利用した研究や工学的・情報学的デバイスを用いた研究などを行うことも可能です。
教員の興味は比較的幅広いため、研究テーマに関しては、知覚・認知・感情・学習あたりに関連するものであれば、なんでもOKです。

本年度発足したばかりの新しい研究室のため、学生は少なく(修士1名、学部3年生2名)、教員からのきめ細やかな指導を受けることが可能です。
また、やる気さえあれば、実験室を長時間使用することもできます。

本研究室に興味がある方がいらっしゃいましたら、下記メールアドレス宛にお気軽にお問い合わせください。
ミスマッチを防ぐために事前の研究室訪問を推奨しております。
kazuyainoue[at]k-inoue.info
[at]は@にご変更ください。